曹洞宗の坐禅の仕方
大本山永平寺東京別院長谷寺専門僧堂  監修 後堂 大法良典(おおのり・りょうてん)
文  副典  高梨尚之(たかなし・しょうし )
(2004年『大法輪』2月号より抜粋)

 
   
   道元禅師が『辧道話(べんどうわ)』にて「仏法に多くの門あり、なにをもてかひとえに坐禅をすすむるや。しめしていはく、これ、仏法の正門なるをもてなり」とお示しになっておられるように、言うまでもなく坐禅は曹洞宗の根本です。ここでは、その基本作法をご紹介します。なお進退作法は僧堂(そうどう)や坐禅会の家風によって多少異なりますので、細部は指導者の指示に従って下さい。
【準備・心構え】
 坐禅の場所はなるべく静かな場所を選び、坐禅前は過度な食事や水分を避け、体調を整えて落ち着いた気分で臨みます。坐中の私語は慎み、咳(せき)等はハンカチを当てて音を立てぬよう配慮します。
 服装は華美な物や露出の多い物、窮屈な物やすべりやすい素材の物を避けます。スカートの場合にはなるべく長めの物を選び、ひざかけ等でひざを覆(おお)います。靴下は脱ぎます。
写真 1 叉手

【堂内への入り方】
 坐禅を行う建物を、僧堂・坐禅堂・雲堂(うんどう)等と呼びます。
 堂内では、叉手(しゃしゅ)といって(写真1)握った左手を胸におき、その上に指を揃えた右手を重ね、軽くひじを張って組んだ姿勢で歩行します(指導者によっては揖手(いっしゅ)といって手の甲を上に向ける姿勢を取る場合もあります)。
 入口正面は住持(じゅうじ)の通り道なので、一般の参禅者は入口左端あたりから中に入ります。左足で敷居(しきい)をまたいで入堂します。一両歩を進んで一旦止まり、堂内の聖僧様(しょうそうさま-文殊菩薩)に対し合掌低頭(ていず)します(聖僧様の方向を向き直す必要はなく、正面を向いたまま合掌低頭をします)。
 再び叉手に直して自分の坐る場所まで静かに進みます。歩き始める時は必ず右足から歩を進めます。堂内の道順は、坐禅堂の作りによっても変わりますが、聖僧様の前を横切ることは禁じられており、基本的には一旦聖僧様の裏まで進み、そこから左右に分かれて進みます。
写真2 隣位問訊・対座問訊

【単(たん)への上がり方】
 坐禅をする各自の場所のことを、「単」と呼びます。
 自分の単についたら、まず単(壁側)に向かって合掌低頭をします。これを隣位問訊(りんいもんじん)といい、自分の単と、両隣の者への無言の挨拶となります。このとき両隣の者は、合掌低頭をして答礼をします(写真2)。坐蒲(ざふ-坐禅の際に坐る丸い布団)は白い名札の部分が見えるように置いてあるので、名札が向こう側になるように向きを変え、場合によっては坐蒲の形を整えます。
 次に合掌したまま身を右回りに百八十度向きかえ、向こう側に合掌低頭します。これを対座問訊(たいざもんじん)といいます。同じく、対面の者は答礼をします。
 その向きのまま、両手を単の畳の部分につき、坐蒲にお尻を乗せ、足を折り曲げてずり下がるようにして単に上
写真3 単に上がる
がります。畳の外側にある木の部分を浄縁(じょうえん-牀縁)と呼び、ここに体やお尻、手や足の裏などをつけないように注意します(写真3)。そのまま前にかがんで履物を揃えます。
【足の組み方】
 曹洞宗では面壁(めんぺき)坐禅といって、壁側に向かって坐ります。単に上がったら足を折り曲げたまま坐蒲ごと回転するようにして壁側に体を向き変えます。
 足の組み方は二通りあります。まず結跏趺坐(けっかふざ)ですが、右の足を左の足のももの上に乗せて、次に左の足を右のももの上に乗せるようにして組みます(写真4)。
写真4 結跏趺坐

 次に半跏趺坐(はんかふざ)ですが、左足(右足でも可)を右のももの上に乗せます(写真5)。どちらの組み方の場合でも、体の中心は坐蒲の中心に背骨がくるようにし、両膝が畳について、お尻と両膝とでバランスを取るようにします(写真6)。
 
写真5 半跏趺坐
坐蒲と浄縁(牀縁)との間は指四本分くらい(七〜八センチ程度)あけるようにします。袴(はかま)やスカートなどの裾(すそ)の部分が単に広がったり坐蒲を覆(おお)ったりしないように、ゆとりの部分を膝や足の下にたくしこみます。
【呼吸と手の組み方】
写真6 坐蒲への坐り方
 ある程度坐禅の姿勢がとれたら、手のひらを上にして両膝の上に乗せ、腰を中心にしてゆっくりと左右に体を揺らします。はじめは大きく、だんだん揺れ幅を小さくしていき、体を安定させて真ん中で停めます。これを左右揺振(さゆうようしん)といいます(写真7)。
 左右揺振が終わったら、手を組みます。手の組み方は右の手のひらを上にして、その上に左手を乗せ、両手の親指の先を軽く触れさせて卵型をつくります。親指が上に反(そ)ったり、下側にへこんだりせず、きれいな楕円型を保ちます。これを法界定印(ほっかいじょういん)といいます(写真4・5参照)。
写真7 左右揺振

 次に深く大きくお腹まで息を吸い込み、ゆっくりと吐き出し、数回繰り返して呼吸を整えます。これを欠気一息(かんきいっそく)といいます。
 なお、朝の坐禅の時などに、行香(ぎょうこう)といって、坐禅のはじめに導師が聖僧様に焼香礼拝(しょうこうらいはい)し、堂内を巡る場合があります。この時には、導師が自分の単の近くに来たらそのまま合掌をし、通り過ぎたら合掌を下げます。
【坐禅中の心得】
 時至って、坐禅の始まりを告げる鐘が三つ鳴ります。これを止静(しじょう)といいます。坐禅中は舌の先を口の中で上顎(うわあご)につけて、口は閉ざします。天井を頭で支えているような感じで背筋を伸ばします。目は閉じずに、四十五度前方あたりに視線を落とします。呼吸を整えて音を立てずに静かに坐ります。
 曹洞宗の坐禅は「只管打坐(しかんたざ)」や「無所得無所悟(むしょとくむしょご)」といった語に表されるように、思索をしたり雑念を持ったりせず、また坐禅を悟りを得たり仏になるための手段とせず、ただただ坐することが肝要です。
 坐禅は約四十分ほどで一区切りとなります。線香一本が燃え尽きるくらいの時間という意味で、いっちゅうと呼びます。
【警策(きょうさく)の受け方】
 坐禅中は、指導役の僧が聖僧様よりお預かりした警策を持って堂内を点検して回っています。姿勢が悪い場合には後ろ側から直されることがありますので、無言のまま指導に従います。姿勢を直される時には合掌をする必要はありません。
写真8 警策を受ける

 坐中に眠ってしまった者には、まず右肩に警策を軽く当てられますので、合掌して首をやや左に傾け、体を左前方に少し倒して警策を受ける姿勢を取ります(写真8)。警策を受けたら軽く合掌低頭し、再び法界定印に戻し坐禅を続けます。もし睡魔に襲われて自分から警策を望む場合は、合掌して待ちます。
【坐禅の終わり】
 坐禅の終わりの合図は、鐘一声(抽解鐘-ちゅうかいしょう)です。
 まず軽く合掌低頭し、左右揺振をします。坐禅が始まる時とは逆に、はじめは揺れ幅を小さく、次第に大きくしていきます。体を中心に戻し、坐蒲を中心にして右回りに回転し、かがんで履き物を出し、浄縁(牀縁)に触れないよう注意しながら単から降ります。
 右回りに回って単の方を向き、つぶれた坐蒲を立てて横に回転させながら上から両手で静かに押し、元の形に直します。坐蒲の名札が手前になるように置き、隣位問訊、対座問訊を行います。手を叉手に戻して皆が揃うまで単の前で待ちます。
【出堂(しゅつどう)の仕方】
 手は叉手のままで、聖僧様の前を横切ることなく、入堂した時と逆の経路を通って出堂します。一旦聖僧様の後ろあたりまで進み、そこから前門に向かって進みます。途中で聖僧様の方を振り返って礼などはせず、そのまま右足で門の敷居をまたいで出堂します。
【経行(きんひん)】
写真9 経行

 経行とは、続けて坐禅が行われる場合に、坐と坐の間に堂内を緩歩(かんぽ)することです。坐禅の終わりに鐘が二回(経行鐘-きんひんしょう)鳴ったら経行が始まります。合掌低頭して左右揺振し、ゆっくり足を解(と)いて向きを変え、履き物を出して単から降ります。手を叉手にして(指導者によっては揖手)前の者との間隔を保ち、一呼吸に半歩ずつゆっくりと前進します。足の運び方は交互に半歩ずつ進めるのが基本です(写真9)。
 鐘が一声鳴ったら(抽解鐘)一度両足を揃えて叉手低頭し、普通の早さで自分の単まで歩き、隣位問訊、対座問訊をします。通常、経行のあとは次の止静まで数分の間がとってあるので、この間に用便などを済ませます。その必要がない場合は経行の後、再び単にのぼって坐します。

 はじめのうちは慣れない作法にとまどったり、足の痛みに苦しんだりするかもしれませんが、とにかくまずは坐禅に親しんで、継続して実行することが大事です。自己流に陥ることを防ぐためにも、できれば経験豊かな指導者について直接教えを受けることが望ましいでしょう。